2012年5月27日日曜日

シットロト

旧暦六月十日(七月十二日)、室戸の漁師たちは一斉に漁を休む。
豊漁への感謝と魚類一切への供養、豊漁の願いをこめ、神社仏閣や船主の家々を巡り終日踊りぬく。シットロトは漁師の念仏踊りである。
 そろいの浴衣に赤いたすき、わら草履に手甲、投網がさ。このかさの周りには五色の色紙が幾重にも短冊状に張られ彩り豊か。かさの上には手製の縫いぐるみの猿が円すい形状に数十匹飾られ、愛らしい。
 音頭、太鼓、かねそれぞれ一名がはやし手となり三十数名の踊り子が車座に踊る。踊り納めると飾りの猿は、「難を猿」縁起物として遠洋への出漁者や旅立つ友の無事を祈って手向けられる。
 シットロトの語源は、「しっかり踊ろう」からの転化や、「しっとーと」「しとと」--情の細やかなさま、しっぽり、しめやかの古語に由来すると言われる。舞姿やリズム、歌詞からは後説に近いと思うが定かでない。いつの時代か、乞食僧に習ったとも、わんぱく小僧にいじめられた人魚が漁師に助けられ、お礼に豊漁を招く踊りを授けたとも伝わる。
 赤銅色に日焼けした顔に、海の男とは思えぬやさしい舞い姿が心にのこる。
                                    
                                 (儿)
              高知新聞「閑人調」掲載


1 件のコメント:

  1. 「シットロト」を読ませていただきました。
    室戸の念仏踊りだそうですね。
    念仏踊りは沖縄の「エイサー」も有名で、東北出身の袋中上人が明に渡る途中の慶長8年(1603年)から3年間琉球の首里に滞在して浄土宗を布教した時に念仏踊りが伝わったものが原型だそうですが、この袋中上人が途中で室戸に立ち寄ったことが考えられませんかね。
    太鼓を固定せずに身体に結び、演舞するのも同様ですね。
    「シットロト」の踊りでは、飾り付けた唐傘風のものを被って踊るのは独特のものでしょうね。若い女性が踊れば様になるように思うのが、荒くれ漁師が踊るのが余計に面白いのでしょうね。
    おそらく、昔はその唄も汐枯れ声で謡ったのでしょう。
    貴重な無形の文化遺産です。

    返信削除