2014年7月1日火曜日

室戸市の民話伝説 第51話 猿の尻尾

   第51話  猿の尻尾
 
 これも又、昔々の噺じゃあ。
この噺の頃、日本猿《さる》の尻尾《しっぽ》の長さは六十尺(18㍍)もあったそうな。猿はもともと知恵者《もの》であったが、猿蟹《かに》合戦では蟹をいじめ殺したり、海月《くらげ》は猿に嘘をつかれ、乙姫様に骨を抜かれてしまうなど。その知恵を悪いことに使いはじめたため、神様の怒りに触れ、今に少しずつ短くなっているという。
 ここ三津の里に、お握りの形をした小高い里山があり、その名を丸山といいます。そこには北明神神社が鎮座まします。この明神様に守られながら、若い猿の家族と川獺《かわうそ》の家族が仲良く暮らしていました。 ふだん、猿は川獺の食事にさほど興味を示さなかったが、ある日のこと、川獺が社《やしろ》の前のスマシロの磯で捕った魚やオクボ貝(陣笠貝)を岩の上に並べて、美味しそうに食事を取っているのを見て、羨ましくてたまらなくなった。
            絵  山本 清衣

 猿はある日、川獺に「川獺殿、どうしたらそんなに魚や貝が捕れるのかい!」と、尋ねた。 川獺は真面目な顔をして、猿殿に捕り方を教えた。 
「猿殿、あなたは潜れないから、その長い尻尾を海に垂らして、ピクピクと動かしていれば、魚やオクボ貝はひとりでに食いついてくるさ。その時、尻尾を引っ張り上げれば、幾らでも捕れるよ」と、教えられた。猿は、「これは良いことを聞いた」ぞと、早速その夜、岩の上に腰を下ろし長い尻尾を海の中に垂らし、魚や貝が食いつくのを待った。
 しばらくすると、尻尾をピクピクと引くものがあった。猿は、「雑魚《ざこ》が一匹食いついた」と喜びながら、
  小さな雑魚はあっちへ行け、やんやさあ  大きな魚はこっちへこい、やんやさあ 
と、歌いながら大物をじっと待ち続けた。
 すると、今度は前よりも強くピクピクと尻尾を引いた。
  「今度は二匹食いついた」
  「又々来たぞ、今度は三匹だ」
と、喜びながら尻尾を引き上げる適時を見計らっていた。
 一方、海の中では、オクボ貝達が集まり、ふだん見慣れない物が岩の上から垂れ下がっている。触ってみるとふわふわとして柔らかい。これは面白いぞ。皆に触ってもらおうや、と話し合い三津中のオクボ貝に声を掛け合った。集まったオクボ貝は、いっせいに猿の尻尾にとりついた。
 猿は、尻尾がピクとも動かなくなったのを大物が掛かった、と勘違い。
 「さあ、今が上げ時」だと、尻尾に力を入れて「うん」と引き上げたが、尻尾はひたりと岩に張り付いて離れない。
 猿は「ははあ、こりゃ大物が掛かったわい」と、喜んだ。
  真鯛《まだい》が釣れたか、やんやさあ
  鰤《ぶり》が釣れたか、 やんやさあ
と、歌いながら顔を真っ赤にして引き上げにかかった。が、尻尾はびくともしない。
 さすがに猿は慌てて、尻尾の周り見ると、オクボがびっしり山のように張り付いている。驚いた猿は、「オクボ女郎やオクボ殿」私しゃ家《うち》には子供も居れば親も居る。どうか、離してくだしゃんせ。
  真鯛もいらない のいてくれ 
  鰤もいらない  のいてくれ 
  オクボ女郎は  なおいらぬ
   ひょういどっと ひょいどっと
と、泣きながら歌い、尻尾に力をいっぱいいれ「うん」とばかりに引き上げた。
 するとなんと何と、猿の尻尾は根元《ねもと》からプッツリと切れてしまった。
 猿の尻尾が短く、顔が赤いのは、この時、全身に力を入れて気張り過ぎたから、一方お尻が赤いのは、お尻を岩に擦りつけていたため、毛が抜けてしまいこの日から赤くなってしまったたそうな。
 この噺は、三津の百合さんと八重さん姉妹が、夜ごと母親から聞きながら眠りについた、と教えてくれました。
                              文  津 室 儿